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誰でも量子を操作できる! SpinQがより量子コンピュータの理解を促進する新製品「Gemini Lab」を開発中

誰でも量子を操作できる! SpinQがより量子コンピュータの理解を促進する新製品「Gemini Lab」を開発中

ChatGPTに匹敵するイノベーション?日本でも人気、世界初のデスクトップ量子コンピュータ

深圳のSpinQ社は、冷却の要らないNMR(核磁気共鳴)方式のデスクトップ量子コンピュータを開発・販売している、おそらく世界唯一の企業です。2022年末に国内販売が始まったGemini-miniは、126万円という価格もあってスイッチサイエンスの売上Top20に入るほどの人気製品となり、多くのお客様にとって「はじめて、目の前で触れる量子コンピュータ」となっています。
また、「量子コンピュータが通販で買える」というのが未来を愛する人々の関心を巻き起こし、SF関係者が「SFっぽい現象」を評価する最も長い歴史を誇るアワード「星雲賞」2023年の候補に、ChatGPTなどと並んでノミネートされました。

その一方でこれまでのSpinQ製品は、「どうやって量子状態を作り、どう量子を操作して計算させるか」はユーザから見えないブラックボックス状態でした。「実際にどう原子核を量子化させ、コントロールしているかがユーザから見えないのでは、シミュレータと変わらないのではないか?」という意見も多く、SpinQでは新製品を企画しています。
現在開発中の「Gemini Lab」は、それを体感させる新製品です。開発中の製品デモを見学してきました。

量子コントロールの仕組みが具体的に体験できる

開いた状態で動作するGemini Lab。付属のアプリケーションに、原子核をどう量子状態にしてコントロールするかが表示される

NMR形式の量子コンピュータは、試薬に電磁波を当てて、原子核を共鳴させ、量子状態を作り出して計算させます。とはいえ、どのような試薬にどう電磁波を当てるかはノウハウが必要です。

SpinQでは量子技術の論文誌「EPJ Quantum Technology」にSpinQ Gemini: a desktop quantum computing platform for education and researchという論文を掲載し、手法を公開しています。
2019年から販売している彼らのデスクトップ量子コンピュータGeminiでは、ジメチル水素ホスファイト((CH3O)2PH) という試薬を使い、どういう電磁波を当ててリンと水素の原子の原子核を量子状態にし、どう量子ビットを操作して計算をさせているかが掲載されています。

一方、製品としてのGemini, Gemini miniでは、量子コンピュータを用いてショア、グローバーなどの量子計算を実行することはできますが、計算時に各原子核がどういう状態にあり、どういう電磁波を当てているかはユーザから見えない状態にありました。
眼の前に実機があるという説得力はあれど、入出力はシミュレータやクラウド越しとさほど変わりません。

その、試薬の中の原子核を量子化し、その量子状態をコントロールして計算する過程をユーザが操作・モニタリングできるようにしたのがGemini labです。

 

試薬が量子化する状態を自分で操作して体験できる

Gemini Labでは、NMR量子コンピュータの理論をより深く学び実践するために、核磁気共鳴の信号を操作・モニタリングする、ラビ振動の操作、量子ビット化した原子核を観測する、計算のために初期化する、計算時に量子がどうなっているか観測する、初期化操作やデコヒーレンス状態の観測など、原子核がどう量子化し、どう操作するかの9つの実験・モニタリング機能が組み込まれています。


量子コンピュータを具体的に学べる9つの機能

それぞれ、以下のような機能でテスト・モニタリングできます。

  1. どのような強さ・周波数の電磁波を照射するかを操作できます。
  2. 対象の試薬中の原子核が今どういう状態にあるかなどを計測し、どの程度量子状態になっているかをモニタできます。
  3. 量子状態になっている原子核に、計算をさせるには、どのように操作するかを理解し、テストすることができます


量子計算を実行したとき、量子の状態がブロッホ球の3次元グラフ上でどう示させるかが図示される


ラビ振動の様子を観測できる(発売時にはすべての画面で英語インターフェイスも用意されます)


電磁波を照射して量子ゲートを作ってみる。照射する電磁波の振れ幅、位相などはコントロールできる

いずれの機能でも、照射する電磁波を変えるなどして、量子状態になっている/なっていない様子を観察することができます。


理想通りの数値を入力すればこのように量子状態になるが、数値を変えると何がどう変化するか見れるのが、Gemini Labの魅力

 

より根本的な量子コンピュータ理解のために

電磁波の照射によるコントロールはNMR形式の量子コンピュータ特有のもので、現在量子コンピュータの主流になっている超伝導量子コンピュータとは縁の薄い技術ですが、ラビ振動、ブロッホ球などは量子力学の基本的な概念で、ショアのアルゴリズムなどはどの量子コンピュータを扱う上でも必要なものです。

今回も福本博士、金沢大学秋田純一教授(オンライン)にミーティング参加いただいて、SpinQチームの説明を一緒に聞きました。

Geminiシリーズは手元で量子計算が実行できることで、多くの研究者に「百聞は一見にしかず」という評価を頂いていますが、Gemini Labはその特性を更に推し進めた新モデルといえるでしょう。
量子の操作が具体化した分、「機械としての仕組みがより明確になるので、工学部っぽい層に人気になりそう」というコメントも出ました。

世界初、マーケットインの量子コンピュータ。日中同時発売を目指しています

「この製品、Coolなアイデアだと思うけど、誰が言い出したの?」という質問に、プロダクトマネージャが「お客さんからのフィードバックは、量子コントロールの中身を具体的に知りたいという意見が多かった。だから経営陣でなくて、プロダクト組からアイデアを出して、製品化につながった」と答えてくれました。とてもいい会社の体制だと思うし、顧客の要望を聞いて開発される、マーケットインの量子コンピュータハードウェア製品は、おそらく世界初でしょう。

現在、発売に向け、動作の更なる安定化をめざして開発が続けられています。価格はGeminiデスクトップ版(スイッチサイエンスでの参考価格は40000USD+消費税=6,402,000JPYだが、発注時のレートで再見積もり)と同価格を予定。数ヶ月後のリリース時には、日中同時発売を計画しています。

 

参考:量子コンピュータとのファーストコンタクトをしてきた(秋田教授のnote)

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