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気球開発から誕生したコンパクトな超音波式風速計

気球開発から誕生したコンパクトな超音波式風速計

読者の皆様こんにちは、迫田です。本記事では、ストラトビジョン様より寄稿していただいた内容をご紹介します。

早速ですが、ご覧ください!


こんにちは。ストラトビジョンの河野と申します。今回はじめてスイッチサイエンスマガジンに記事を寄稿させていただきました。

この記事では、昨年12月にマーケットプレイスで発売を開始した「超音波風速計 ULSA(アルサ)」についてご紹介します。

ストラトビジョンについて

ストラトビジョンは、「滑空回収型の気象観測気球システム」の開発に取り組んでいます。今のところ会社や組織ではなく、私ひとりのいわゆるMakerのプロジェクトです。プロジェクトにご興味のある方は、Webサイトをぜひご覧ください。

今回ご紹介する超音波風速計ULSA(アルサ)は、実は気球の技術開発過程で生まれたものなんです。

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放球前の気象観測気球(ゴム気球)

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高度約6000mから降下する機体

気球と風の計測

最近いろいろあって(?)、観測ツールとしての気球の存在が広く知られるようになってきましたが、ヘリウムや水素を充填した気象観測気球(ラジオゾンデと呼ばれる)は、民間航空機の約3倍の高度まで上昇することができ、毎日世界各地で数千個の気球が上空の温湿度や気圧の観測を行っています。

観測後に観測装置はパラシュートで落下しますが、コストがかかるので基本的には回収せず使い捨てにします。どこに落ちても大きな問題にならないように、観測装置は非常に小型かつ軽量にできているのが特徴です。このような気球による気象観測は100年近く行われてきました。

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気象観測気球の飛行高度

一方で、このような軽量の装置(センサー)で観測できる対象は非常に限られています。昨今、気候変動の動向に対して国際的に注目が集まっていますが、大気の直接観測データの貴重な供給元である気象観測気球の計測対象や基本構造は発明時から大きく変化していません。

人工衛星によるリモートセンシング(遠隔測定)や気候シミュレーションのさらなる発展のためには、実は気球のように一見古典的に見える直接観測のツールも同時に進化していく必要があるのです。

しかしこれまで計測ができていなかった複雑な対象を測ろうとすると色々な問題が発生します。

  • 観測装置の質量が増加するので安全上好き勝手な場所に落とすことができなくなる。
  • 観測装置が高価になるので使い捨てするにも回収するにもコストがかさむ。
  • 測定データが大容量になり無線で送るのが難しくなる。
  • 装置の質量・体積増で環境への負荷が増える。

これらの課題を一挙に解決するためには「気球に搭載した装置を効率的に回収できるシステム」を開発する必要があります。

要するに、ストラトビジョンではこの「装置回収システム」をつくっているという訳です。開発中の回収システムはパラグライダー型の柔軟な翼(パラフォイル)を持っていることが大きな特徴です。従来気球ではパラシュートを用いるため落下する方向を制御することはできませんが、パラフォイルは滑空ができ、降下方向を制御することができます。これによって一定の移動能力を持たせることで観測装置をこれまでより効率的に回収しようとしています。

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従来ラジオゾンデと開発中の機体との比較

しかし、ここで大きな問題がでてきます。それは「風」の計測です。パラシュートの場合には風にのって装置ごと流されるので風に対する速度を基本的には持ちません。ところが、パラフォイルは滑空できるので、風に対しての速度(対気速度)を持つことになります。この対気速度がわからなければ、滑空しているのか、失速・墜落しているのか見当がつかないということになります。要するにこの回収システムを実現するには「何らかの方法で風を計測できる装置」が必要であることがわかります。

ところが……。気球の飛ぶ環境は気温が-70℃、気圧が地上の1/100程度だったりと尋常なものではありません。この環境下で風を計測するのは困難を極めます。

さて、どうしたものか……。

そもそも風はどうやってはかる?

特殊環境における風の計測が難しいというのは当たり前に感じますが、そもそもの話、みなさんはこれまでに「風」を計測したことはありますでしょうか。ここでうっすらお気づきの方も多いかもしれませんが、ありとあらゆる物理量がデジタル計測できるようになった昨今でも、「風」を計測するのは非常に難しく、市場で入手できるものは古典的な手法を用いる風速計に限られています。

例えばあなたが、ドローンの屋外飛行練習やスカイスポーツをするときに備えて風速計を購入しようと検索したとき、ヒットする風速計はほとんどがカップ(やプロペラ)をくるくる回転させて風を計測する「風杯式風速計」です。

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風杯式風速計 by Stefan Kühn (CC0, via Wikimedia Commons)

一方で「微小な空気の流れ」をはかるような場合には、プロペラを風で回転させるような風速計は適していません。オフィスや学校の環境調査で調査員の方が「なにやら細長い棒」を天井付近のダクトやエアコンの吹き出し口にかざしているのを見たことがあるかもしれません。このときに使用されるのが「熱線式風速計」です。

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熱線式風速計 by Harke (Public domain, via Wikimedia Commons)

熱線式風速計は熱した抵抗体に風が当たって冷却されるときの電気抵抗の変化を読み取ることで微風速の計測を可能にしています。しかし風速が大きくなってくると、風杯式とは反対に熱線式では計測が難しくなります。

一般的に市場に出回っている風速計のほとんどがこの2種類になります。

超音波で風をはかる??

これまでにご紹介した風速計のスペックには一長一短があり、言うまでもなく気球で風をはかる場合には使用することはできません……。

気圧や温度が変動するような環境で使用できて、なおかつ風杯式風速計や熱線式風速計のいいとこ取りのような都合の良すぎる風速計を実現することはできないでしょうか。それを実現できるテクノロジーが「超音波」です!

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3次元超音波式風向風速計 by Daderot (CC0, via Wikimedia Commons)

超音波を使用する風速計を「超音波式風向風速計(=超音波風速計)」と呼びます。微風速から強風までの広いレンジをカバーすることができることに加えて、なんと超音波式の風速計は「風向」も同時にはかれる優れものです。また従来の風速計とは異なり、測定対象の風に対して機械的な接触なく計測できることから、非常に弱い風から強い風まで、高い応答性で計測できるのが特徴です。

このように非常に優れた強みを持つ超音波風速計ですが、一般には全く普及していないので、おそらく実物を見たことがある方はとても少ないのではないでしょうか。

近くに気象庁のアメダス観測地点があるという方は、超音波風速計を目にすることができるラッキーな人かもしれません。アメダスでは2021年から、全国の風速計を風車式から超音波式に更新する作業に着手しています。気象庁でさえ最近機材更新し始めたくらいなので、普及率は低く、価格も非常に高いという訳です。

ところで、超音波でどうやって風をはかるのでしょうか。超音波風速計を構成するには、超音波を送受信できるモジュールが最低1対必要です。

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送受信器1から2の方向に風速Vwの風が吹いているとします。このとき送受信器1から2に向けて超音波を出すと、超音波の伝わる速さは音速Vsに風速Vwが足された速度になります。このときの到達時間を示すのがt1の式です。

今度は送受信器2から1に超音波を出します。超音波は風速Vwに逆らって進むので、音速Vsから風速Vwが引かれた速度になります。このときの到達時間を示すのがt2の式です。

この2つの到達時間t1, t2とセンサー間距離dから、風速Vwを計算することができます。往復で測定することにより、Vwの式では「音速Vs」の項がなくなり、理論的には「温度や気圧などにより変動する音速」を考慮しなくてよいということになります。

さらに、1対(1次元)の送受信器を2対に増やすと、それぞれの風の成分から水平方向(2次元)の風向も計算する事ができるという訳です。

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要するに、超音波風速計は気球上のような気圧や温度、風向きが変動しまくる環境でも使用できる(※1)、数少ない風の測定方式ということになります。

超音波風速計ULSA(アルサ)誕生

このような検討を経て、気球上での風測定には超音波風速計が必須になるだろうと考えたのが2015年あたりでした。しかし、産業用超音波風速計は目が飛び出るほど高価で、さらに筐体も大きく重く、とても小型の気球システムに搭載することのできるようなものではありませんでした。

そのため、何を思ったか自分で作ってみようと2018年に原理試作を開始し、1次元で風速計測ができるようになったのが2021年、それからほぼ丸一年をかけて誕生したのが、超音波風速計ULSA(アルサ)です。結果的にULSAは日本国内に限れば最小・最軽量の超音波風速計に仕上がりました(※2)。

ULSAには風速計機能のみのBASICと、M5Stackが上部にスタックできるM5Bの2種類があります。風速計の性能は両機種で同じですが、M5BにはM5Stackに接続できる9軸 IMUが内蔵されており、M5Stackのプログラミングにより風向補正ができるようになっています。またLCDにグラフィカルな値を表示したり、Wi-FiやBluetoothを使ってIoTモジュール的に使用することもできます。

USB接続のほか、UARTコネクタも備え、様々な通信ビットレートや計測レートを簡単に設定変更できるので、PCや組み込み機器にすぐに接続することができます。いろいろなアプリケーションが考えられると思いますが、これまでにない測定性能を提供可能ですので、思いもよらない使い方がされることを製作者として楽しみにしています。

アプリケーション例

  • ロボットへの搭載(UAV、USVなど)
  • 屋内の気流評価(HVAC、感染対策など)
  • 各種スポーツへの導入(自転車、陸上競技など)
  • 入力インターフェースとしての利用(インタラクティブアート、VRなど)

最後に

ストラトビジョンは滑空回収方式による気球観測のブレークスルーを目指して、新しい気球システムを開発する過程で、コア技術として重要な超音波風向風速計を独自に開発しました。この超音波風速計をULSAシリーズとして一般販売させていただくことによって、気球開発の資金を捻出し、開発を前に進めることができます。「風や空気の流れ」に課題をお持ちのみなさまがいらっしゃいましたら、ぜひ超音波風速計ULSAを通じてストラトビジョンの活動にご支援をいただけると幸甚です。

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ストラトビジョン - Webサイト
@strvsn - Twitter



※1 販売しているULSAは、一般的な環境で使用することを想定してスペックを規定しており、特殊環境で使用できることを保証しておりません。

※2 業界レベルで最小・最軽量のクラスに属するほか、日本国内メーカーに限定すると最小・最軽量(ストラトビジョン調べ2022年12月時点)。

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