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スイッチサイエンス年間売り上げランキングベスト100に見る 2023年電子部品ヒット商品のトレンド[Fabcrossより転載]

スイッチサイエンス年間売り上げランキングベスト100に見る 2023年電子部品ヒット商品のトレンド[Fabcrossより転載]

本記事は、2025年3月に惜しまれながら閉鎖された株式会社メイテックによるものづくり応援webメディア「fabcross」掲載記事を、許可を得て転載するものです。 - 2025.8

 

ランキングは、Webショップで扱っている個々の商品の最新希望小売価格に出荷数をかけたものだ(集計期間は2022年11月〜2023年10月)。スイッチサイエンスで仕入れやイベント出展などを担当する安井良允氏とネットショップ店長の牧井佑樹氏の2人にインタビュー。ランキング表を見ながら2023年の傾向について語ってもらった。

スイッチサイエンスの安井良允氏(左)と牧井佑樹氏(右)

 

M5Stackは第3世代に突入

——ベスト3は、M5Stack、Jetson、Raspberry Pi が占めました。

スイッチサイエンス 安井

安井:弊社の主力である3商品がやはり上位独占となりました。ランキングに占める関連商品を含め、商品群としても今、勢いがあることが見てとれます。

——1位は2023年もM5Stackでしたね。

スイッチサイエンス 安井

安井:M5Stackシリーズは、1位のM5Stack Core2 IoT開発キットほか、5位にM5StickC Plus6位にM5Stack Basic V2.67位にM5Stack Basic V2.74製品がベスト10にランクインしました。台数としては、M5StickC Plusが一番出ていますね。小さいながら液晶画面もいて、価格とのバランスも良いところが人気の秘密でしょうか。1位のM5Stack Core2 IoT開発キットは、StickCBasicに比べて単価が高い分、1位になりましたが、M5Stackシリーズでもこの3機種が今のメインといえそうです。

注目は15位のM5Stack CoreS3 ESP32S3 IoT開発キットです。20235月にリリースされたのですが、ESP32-S3という新しいチップが載ったCoreの新シリーズになります。Core2に比べ、値段も上がりましたが、カメラやセンサー類など新たな機能もたくさん付いています。

スイッチサイエンス 牧井牧井:M5Stackシリーズの入門機としては、第1世代がBasic、第2世代がCore2、このCoreS3が第3世代になりますね。5月からの発売ということもありますが、もっと数が出ていい商品なので、まだみなさん様子見というところかと。入門機としてはちょっと難しいという印象なのかな?

スイッチサイエンス 安井

安井:新チップESP32-S3搭載のシリーズとしては、16位のATOMS338位のM5Stamp S3もそうですね。ATOMS3は、ATOMに初めて液晶がいたタイプで、親指サイズの手軽な液晶付きマイコンとして複数使うのに適しています。2023年のMaker Faire Tokyoでもそういう使われ方をしている作品をよく見ました。

 

1位:M5Stack Core2 IoT開発キット


5位:M5StickC Plus



6位:M5Stack Basic V2.6

 


7位:M5Stack Basic V2.7


15位:M5Stack CoreS3 ESP32S3 IoT開発キット


16位:ATOMS3


38位:M5Stamp S3


Jetsonは値段が上がり、プロユースへの流れが加速

——2位はJetson AGX Orin 32GB開発者キットでした。

スイッチサイエンス 安井

安井:Jetsonは人気のAI開発ボードで、単価が高くともそれなりの数が出ているのでトータルするとこの位置になります。14位にもJetson AGX Orin 64GB開発者キットがありますが、AGXとしては今後こちらが主力になりそうです。ほかに、9位にJetson Orin Nano開発者キット、11位にJetson Nano 開発者キット B0137位にJetson Xavier NXモジュールがランクインしています。

スイッチサイエンス 牧井牧井:Jetsonのグレードでいうと、上からAGXNXNanoといった感じなのですが、世代がXavierからOrinに変わって値段も上がっちゃったんですよね。Nanoでさえ、9Jetson Orin Nano開発者キット(税抜価格75800円)は、11Jetson Nano 開発者キット B01(税抜価格28000円)に比べ、価格は約3倍。「ちょっとAIをやってみようか」と買うにはさすがに高い。Jetsonは当初、高性能なSBC*としてメイカーの方々にも注目を受けていましたが、今の価格帯となると、AI技術など、より先進的なテクノロジーに向けた用途での利用に限られてきてしまいました。

37位にJetson Xavier NXモジュールがありますが、Xavier NXの開発キットがなくなってしまって、評価するためにはモジュールを買うしかないっていう流れです。59位にSeeedから出ているreComputer J2021ACアダプタ抜き)は、Jetson Xavier NXが載っているモデルで、同じ理由でこの位置にいるんだと思います。



2位:Jetson AGX Orin 32GB開発者キット


9位:Jetson Orin Nano開発者キット



11位:Jetson Nano 開発者キット B01


14位:Jetson AGX Orin 64GB開発者キット

 


37位:Jetson Xavier NXモジュール

 


59位:reComputer J2021ACアダプタ抜き)


SBCServer Based Computingの略。アプリなどをサーバーに置き、実行するコンピュータシステム。使用者はサーバーに接続してアプリなどを使う。

在庫復活により安定供給できたRaspberry Pi4

——2024年はRaspberry Pi5も登場すると思いますが。3位のRaspberry Pi 4 Model B / 8GBに関してはどうでしょうか? 

スイッチサイエンス 安井

安井:2022年後半から2023年春ごろまでは在庫がありませんでした。2023年の後半になって安定供給されるようになってこの位置にいます。逆に8位のRaspberry Pi 400 日本語キーボードは前半在庫がなかったときに代替品としてよく売れました。Raspberry Pi5に関しては、技適がまだ取れていないので、日本での発売時期は明確になっていませんが、発売されれば主力商品となるでしょう。ただ、いきなり5に切り替わるのではなく、当面は4と併用されると思います。在庫を切らさないよう注意したいと思っています。

スイッチサイエンス 牧井牧井:45は結構違うんですよね。性能がかなり上がっています。ただ、その分、発熱量が増えたのでなかなか冷却用のファンしで使うのは難しいかも。もちろんそのためのケースとかいろいろ出てくるとは思いますが。4の方が発熱量も消費電力も低いので、そういう点で求められる可能性は十分あります。個人の方だといきなり5に切り替えるというケースもあるかもしれませんが、仕事で使っている人はそうはならないと思います。

スイッチサイエンス 安井

安井:13位にRaspberry Pi 4 スターターキット(4GB RAM版)が入っていますが、これがどう動くかは注目ですね。初めてRaspberry Piに触れる方が、4から始めるのか、5から始めるのか。初心者でも、学校や職場では4だから、4からという人も一定数いるでしょう。同じく12位のラズパイ4に最適なACアダプター 5.1V/3.0A USB Type-Cコネクタ出力の売も気になっています。このアダプターは4でも使えるのですが、55アンペアまで使えるので、周辺機器が多い場合はフルの性能が引き出せない可能性があります。悩ましいところです。

スイッチサイエンス 牧井牧井:単価が安いのでランキングは下ですが、64位にRaspberry Pi Picoがいます。1000円を切る安さでこのランクにいるのですから、台数では、M5StickC PlusArduino Unoより出てますね。価格が安いので初めての方でも手に取りやすいのですが、Arduino UnoM5Stackのような至れり尽くせりのマイコンボードに比べると、逆に使いづらさもあります。そういった細かいところをフォローした解説書などがあると、もっと台数は伸びると思いますね。

3位:Raspberry Pi 4 Model B / 8GB

8位:Raspberry Pi 400 日本語キーボード

12位:ラズパイ4に最適なACアダプター 5.1V/3.0A USB Type-Cコネクタ出力

13位:Raspberry Pi 4 スターターキット(4GB RAM版)

64位:Raspberry Pi Pico


古典のArduino、教育のmicro:bit、潜在力の高いSPRESENSE

——その他のマイコンボード関係の動きはどうでしょう?

スイッチサイエンス 安井

安井:もはや古典といっていいArduinoですが、10位にArduino Uno R317位にArduinoをはじめようキットがランクインしています。20236月にリリースされたArduino Uno R4 Minima57位に登場しました。機能が上がったわりに価格はR3より安いので、今後はこちらが徐々に伸びていくと思います。一方で、M5Stackなど「Wi-Fiが使えるボード」がある中で、「ArduinoWi-Fi」という使われ方が今後もされていくかどうかが鍵ですね。

スイッチサイエンス 牧井牧井:19位のmicro:bit(マイクロビット) v2.2は、バージョンが上がって機能も増え、教育用マイコンボードとしては一定の地位を占めたと思います。多少価格は上がりましたが、依然として学校現場ではよく使われています。54位にも関連商品といえるmicro: Maqueen Lite - micro:bit Robot Platformがランクインしています。ライントレーサーの機能が付いた教育用ロボットなのですが、根強い人気です。

スイッチサイエンス 安井

安井:43位のSPRESENSEメインボード[CXD5602PWBMAIN1]ですが、ソニー製のマイコンボードということでブランド力もあり、消費電力の割に機能も高い商品ですが、逆に使いこなせないのではないか、と思う人も多いようです。もともとBtoBなどプロユースを意識した商品ですが、潜在力をうまくアピールできればもっと上位に来ると思います。

 


10
位:Arduino Uno R3

17
位:Arduinoをはじめようキット<


19
位:micro:bit(マイクロビット) v2.2


43
位:SPRESENSEメインボード[CXD5602PWBMAIN1]


54
位:micro: Maqueen Lite - micro:bit Robot Platform


57
位:Arduino Uno R4 Minima

 

科学技術の未来を開く量子コンピュータもランクイン

——2022年のスイッチサイエンス年間売り上げベスト100の記事でも注目商品として取り上げたGemini-Mini - 2-qubit ポータブルNMR量子コンピュータが18位にランクインしました。

スイッチサイエンス 安井

安井:100万円を超える桁違いの単価ですから、台数は少なくてもたちまちランクインといった感じです。それでも21位にランクインした【お取り寄せ】Triangulum - 3-qubit デスクトップ型NMR量子コンピュータと合わせ、「机の上で使える量子コンピュータ」というのはすごいと思います。超電導を使うタイプは大型の冷却器が必要でデスクトップというわけにはいきません。この商品は磁気を使うタイプなので、机に収まるほどコンパクトになりました。

スイッチサイエンス 牧井牧井:こういうデスクトップ用量子コンピュータっていうのは日本でも初なので、2023年は一般の研究機関や大学の研究室レベルに入った元年といえるのではないでしょうか?  この商品をきっかけに、本格的に量子コンピュータの研究をする人が増えたらうれしいです

 


18
位:Gemini-Mini - 2-qubit ポータブルNMR量子コンピュータ


21
位:【お取り寄せ】Triangulum - 3-qubit デスクトップ型NMR量子コンピュータ

 

主力商品として成長したmyCobot

——ロボットアームmyCobotも上位にランクインしてますね。

スイッチサイエンス 牧井牧井:順位としては、20myCobot 280 M5 - ロボットアーム(旧モデル)が最上位ですが、ほかに28位、42位、47位、55位、62位、86位、94位と7機種もランクインしています。特に42位のmyCobot 280 Pi - ロボットアーム(2023年モデル)は評判が良い商品です。品質が上がったという評価を受けています。おそらく今後はこれがスタンダードモデルになっていくでしょう。

51位にはmyAGV - myCobot用搬送車がいます。これはmyCobotが運べるAGVAutomatic Guided Vehicle 無人搬送車)で、myCobotの多用な使い方につながる面白い商品だと思います。さらにラインナップも充実して、今後も弊社の主力商品になりそうです。

20位:myCobot 280 M5 - ロボットアーム(旧モデル)


42
位:myCobot 280 Pi - ロボットアーム(2023年モデル)


51
位:myAGV - myCobot用搬送車

 

バラエティに富む深度カメラの世界

——100位までの順位を見ると、マイコンボードとロボットアームを除いたところではIntel RealSenseやLuxonis OAK-Dといった深度カメラが目につきますね。

スイッチサイエンス 安井

安井:そうですね、Intel RealSenseでは、25位のIntel RealSense Depth Camera D455を筆頭に、45位、50位、75位、94位、95位、Luxonis OAK-Dでは56位のLuxonis OAK-D-Pro W(広角)を筆頭に72位、74位、79位、85位、92位と各機種がランクインしています。ロボットの目として使われたり、移動体のカメラとして使われたり、用途はさまざまですが、機種の多さで対応しています。

スイッチサイエンス 牧井牧井:深度カメラって少し前はメイカーの方が買って遊んでいたイメージがありましたけど、最近の売れ方を見ると、研究とか、業務とか、プロユースで売れていくイメージです。安いものより、高くても用途を絞り込んだ高機能の製品が売れる傾向にあります。製造する側もその流れに沿ってプロ向けに多用なモデルを出すので、同じブランドのいろいろな機種がランキングされるのだと思います。

スイッチサイエンス 安井

安井:プロユースのものがランキングされる時代になったのを象徴する商品が、35位の《お取り寄せ商品》TIER IV C1 120 deg カメラ + GMSL2-USB3.0 変換キットです。これはJetsonなどの開発ボードと組み合わせて使うカメラなのですが、もとは車載HDRカメラ(Automotive HDR Camera)です。製造元のTIER IV(ティアフォー)社は自動運転技術を開発している会社です。画像認識という点で都合の良いカメラが見つからず、それなら自分たちで作ってしまえ、ということでできたのがこのC1カメラだそうです。最初からプロユースの製品が、35位にランクインするほど売れたのですから、傾向が変わったのを感じます。

25位:Intel RealSense Depth Camera D455

35位:《お取り寄せ商品》TIER IV C1 120 deg カメラ + GMSL2-USB3.0 変換キット

56位:Luxonis OAK-D-Pro W(広角)

 

2024年は変革期になりそう

——2024年へ向けて商品動向はどうなりそうでしょうか

スイッチサイエンス 牧井牧井:AI開発ボードとか高機能カメラとか、用途を絞ったプロユースの商品の動向は注目しています。そういう人たちを満足させる商品も引き続き扱っていきたいですね。一方で、既存のメイカーの方にも注目してもらえるような新規性のある商品を見つけていきたいとも思います。

スイッチサイエンス 安井

安井:Raspberry PiArduino2024年には代替わりしていくし、M5Stackも新製品を出し続けると思うので、動向を見ながら在庫を切らさないようにやっていきたいと思います。

スイッチサイエンス 牧井牧井:気になるのは今の円安ですね。1万円前後のものが一気に値段が上がって、15000円とかになってしまって、それで買いにくくなっているというのは多分にあると思います。為替はどうしようもないので、たとえば「サービスや製品の両面でお客さんが満足できるように質を上げる」、「より良いものをより安く見つける」などといった努力をするしかないなとは思っています。


以上、2023年のスイッチサイエンス売り上げランキングベスト100を見ながら語ってもらった。定番商品は堅調ながら、電子部品の世界にも、高価格で高機能の商品と、手頃な価格で、ある程度の機能を満たす商品という二極化が進んでいきそうな気配を感じた。2024年のランキングにはどんな変動があるだろうか? また一年、動向を注視したい。


100位までのランキング表

 

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